「西田幾多郎遺墨展――黙より出でて黙に帰す――」

「西田幾多郎遺墨展――黙より出でて黙に帰す――」

2013年10月30日より 12月1日まで京都大学総合博物館において平成25年度秋期特別展として開催しました。

 

西田幾多郎(1870-1945)は日本近代哲学の礎を築いた哲学者であり、長年にわたって京都大学文学部の哲学講座を担当し、多くの弟子を育てました。「京都学派」の祖というようにも言われます。いわゆる哲学の領域だけでなく、芸術の分野にも深い関心を寄せ、「美の本質」、「真善美の合一点」といった論文を著しています。

また、自ら多くの短歌や漢詩、書を残しました。「短歌について」、あるいは「書の美」と題したエッセーも執筆しています。西田が残した書は、その人柄や境涯が生き生きと表現された、気韻を感じさせるものです。また、みずみずしく自由に躍動する筆致もその特徴の一つです。芸術作品としても高い価値を有しますが、同時に、西田の思想をも色濃く映しています。その思想を理解する上でも重要な手がかりになるものです。

これまで御子孫のところに残されていた百点を超える墨跡が、このたびそのご厚意により、京都大学に寄贈されることとなりました。これまで知られていなかった墨跡をも含むこのコレクションは、表装されず、そのままの形で保存されてきました。それだけに、西田の生彩あふれる筆致をそのまま伝える、貴重な資料群といえます。

今回、広く多くの方々に、ぜひ西田幾多郎の、あるときは無心で洒脱な、あるときは雄勁で高峻な筆のおもむきを味わっていただきたいと考え、このコレクションの一部を総合博物館において展示したしました。

 

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展示品一覧

1 硯等一式(西田幾多郎記念哲学館蔵)

2 明治43年(1910)京都帝国大学文科大学助教授任官辞令(西田幾多郎記念哲学館蔵)

3 大正3年(1914)京都帝国大学文科大学哲学講座教授任官辞令(西田幾多郎記念哲学館蔵)

 

【一 枯淡、静寂、気韻】

4 百花春(『無門関』第24則)

5 悠遠(とくに出典はない)。

6 心外無別法(道元『正法眼蔵』第41「三界唯心」)

7 無根樹上着花新(大仙愚堂国師の偈)

8 乾坤一擲(韓愈「鴻溝を過ぐ」)

9 千江有水千江月 万里無雲万里天(『嘉泰普灯録』巻18)

10 青山幾度変黄山 浮世浮世紛紜総不干 眼裏有塵三界窄 心頭無事一床寛(夢想疎石「山居十韻十首」)

 

【二 黙より出でて黙に帰す】

11 無我(「諸法無我」など多数の用例)

12 任運自在(『禅源諸詮集都序』巻上)

13 入佛入魔(道元『正法眼蔵』第24「画餅」)

14 光呑万象(『景徳伝燈録』巻7)

15 水急不流月(『緇林宝訓第二)

16 尋窮無限水 源窮水不窮(『寒山詩』)

17 従門入者 不是家珍(『碧巌録』第5則)

18 心即是佛 佛則是心 心佛如々 亘古亘今(無門慧開の偈)

19 江山如有待 花柳更無私(杜甫「後遊」)

20 芳樹無人花自落 春山一路鳥空啼(李華「春行 興を寄す」)

 

【三 自由なる生命のリズムの発現】

21 至人不留行(『荘子』外篇第26「外物」)

22 桃花流水杳然去 別有天地非人間(李白「山中問答」)

23 寿老人図

24 常憶江南三月裏 落花深處鷓鴣啼(『無門関』第24則、『碧巌録』第7則を踏まえたもの)

25 無位の真人(『臨済録』「上堂」)

26 汲井漱寒齒 淸心拂塵服 閒持貝葉書 歩出東齋讀……(柳宗元「晨詣超師院読禅経」)

27 行到水窮處 坐看雲起時(王維「終南別業」)

 

【四 芸術家自身の人格の発現】

28 好学不知老将至(『論語』「述而篇」)

29 敬天愛人(中村正直、西郷隆盛などに見られる)

30 一日不作 一日不食(『百丈清規』)

31 採菊東籬下 悠然見南山(陶淵明「飲酒二十首」)

32 李白一斗詩百篇 長安市上酒家眠 天子呼来不上船 自称臣是酒中仙(杜甫「飲中八仙歌」)

33 大人者不失其赤子之心者也(『孟子』「離婁篇」)

34 真有大志者 克勤小物 真有遠慮者 不忽細事(佐藤一斎『言志録』)

35 無事於心無心於事 物となつて考へ物となつて行ふ(長野県南安曇郡高家村高家小学校教育記念碑拓本)

 

【五 刹那の一点から見る】

36 あかきもの赤しといはてあけつらひ 五十路あまりの年をへにけ里(自作)

37 来日春光佳 去時秋色爽 湘山与湘水 歳々幾来往(自作)

38 大海原たつさゝ波もくしきかな とこ世の国に通ふと思へは(自作)

39 此頃の心よわさよ 丈夫とおもひし我も 老いにけるらし(自作)

40 己がいほりの松にからみし蔦の葉と かれし木葉をいつくしみ見る(自作)

41 老いぬれど 我の門出を 送られし 母のみ姿 わすれ難り(自作)

42 松山のひかげうつろふさ庭べは 昼しづかなり人なきが如(自作)

43 萬屋人間夢 天辺孤月光(自作)

44 夜来春雨細 孤客不成眠 雨滴階前樹 思詩至暁天(自作)

45 秋汀風日暖 晩出家門行 古道無人迹 銀波千里平(自作)

46 暮雲望不極 夫子今如何 湖海少知己 老来秋思多(自作)

47 青山連海尽 潮水接天流 落日烟雲外 只看富岳浮(自作)

 

【その他】

48 『日本文化の問題』自筆原稿(京都大学文学部図書館蔵)

49 『日本文化の問題』初版本

50 大正3年(1914)1月1日付け田辺元宛書簡

51 昭和13年(1938)4月30日付け田辺元宛書簡